建設総合コンサルタントの中央開発(東京都新宿区)は1月7日、地中熱を活用したカーボンニュートラルの実現に向けて、大規模帯水層蓄熱システムの技術支援の取り組みについてとりまとめた。
同技術の先進国であるオランダに比べ、地層の複雑さや法規制などの問題から開発・導入が遅れている日本において、同社の技術を紹介し、導入実績の公開とともに、普及促進を目指す。
オランダでは主流のATES
帯水層蓄熱システム(ATES)とは、地下水を豊富に含んだ帯水層を巨大な蓄熱槽として活用し、夏季の冷房時温排熱を貯蔵し冬季の暖房に活用する技術(冬季の暖房時冷排熱を貯蔵し、夏季の冷房に活用する技術)をいう。オランダでは、建物空調における熱の再生可能エネルギー技術として主流となっているが、日本では地層が複雑なことや、法規制・ノウハウが少ないなどの問題から、開発や導入が遅れている。
同社は、大林組(東京都港区)、三菱重工サーマルシステムズ(同・千代田区)と共同で、愛三工業(愛知県大府市)の安城新工場において、大規模帯水層蓄熱空調システムを提案。脱炭素化に向けたソリューションとして採用されている。
また、大阪府大阪市や大阪公立大学(大阪府大阪市)、森川鑿泉工業所(同・摂津市)等に協力して、このシステムの開発や普及促進を行っている。
愛三工業・安城新工場における取り組み
愛三工業は2023年12月、主に水素関連製品・電動化製品を製造する「安城新工場(仮称)」を建設すると発表した。大林組は2023年4月に、この安城新工場において、700kW以上の大規模帯水層蓄熱空調システムをはじめとする省エネ技術などを活用し、工場全体のカーボンニュートラル化を進めていることを発表している。
安城新工場の大規模帯水層蓄熱システムでは、空調延べ床面積約1万m2をまかなう700kWのヒートポンプに見合った最大100m3/hの揚水と安定した全量還水を実現する揚水・還水切換型熱源井の設置技術を提供する。新工場では、このシステムの導入により、従来の空調システムに比べて約52%のエネルギー削減を見込んでいる。
この新工場の建設にあたり、中央開発は帯水層蓄熱システムの導入検討と井戸設置業務などのソリューション提案を行ってきた。
大阪市域における地下水の有効利用検討
大阪市と公立大学大阪(大阪市)、在大阪オランダ王国総領事館は2024年4月、省エネルギー、温室効果ガス排出量削減、ヒートアイランド現象緩和策として期待される「帯水層蓄熱(ATES)システム」の社会実装に向けて協力して取り組むための覚書を締結している。
大阪市では、2015年から産学官連携による大容量帯水層蓄熱利用システムの技術開発・実証事業を実証し、普及拡大をめざしている。中央開発は第一回検討会議より携わっており、2016年度うめきた実証事業や、2018年度大阪市域における地盤環境に配慮した地下水の有効利用に関する検討結果(第1次とりまとめ)など多数のプロジェクトに協力している。
ATESにおける井戸掘削技術の開発
地中の温度は地下10~15メートル以上の深さになると、年間を通して温度が一定になり、地下水の流れが遅い場合、ほぼ年間平均気温から+1℃程度になっている。そのため、地中の温度は、暑い夏では涼しく、寒い冬では暖かくなる。この温度差を空調などに利用するのが一般の地中熱利用で、さらに、冷暖房の排熱を、季節を超えて帯水層に蓄熱し、冷暖房に必要なエネルギーをより減らすエコな取り組みが、帯水層蓄熱システム(ATES)となる。
ATESでは、1対の井戸を設置して一方の井戸から汲んだ地下水の熱だけを利用し、もう一方の井戸に100%戻すこと(全量還水)を基本とする。このため、ATES実装のための井戸掘削では、「リバースサーキュレーション工法」という手法を用いる。この工法では、帯水層の透水性や井戸の還水性能に悪影響を与えるベントナイトを使用せずに、堀削を行う。
井戸掘削の際には、掘削泥の粘度やpHを管理し、水圧のバランス調整を行い、掘削孔の安定を保つなど、施工時の技量が必要となる技術だ。
【引用】
環境ビジネス. https://www.kankyo-business.jp/news/093ae57e-a368-4656-a7aa-03a8c03c2337