ブルーカーボン研究の第一人者に「日本国際賞」、国際科学技術財団

国際科学技術財団は1月22日、科学技術において、独創的・飛躍的な成果をあげた人を顕彰する「日本国際賞(Japan Prize)」の2025年受賞者を発表した。

「生物生産、生態・環境」分野では、海洋生態系が取り込む炭素を「ブルーカーボン」と名付けて研究し、地球温暖化対策の新たな指針を与えた、サウジアラビア・アブドラ王立科学技術大学のカルロス・M・ドゥアルテ特別教授(スペイン)が受賞した。

化合物半導体電子・光デバイスの量産・商用化でデュプイ氏が受賞

また、「物質・材料、生産」分野では、化合物半導体の作製方法の研究により、化合物半導体電子・光デバイスの量産と商用化に貢献した、米国・ジョージア工科大学のラッセル・ディーン・デュプイ教授(米国)が受賞した。

炭素吸収源としての海洋生態系の重要性を明らかに

ドゥアルテ氏の授賞業績は「地球環境変動下にある海洋生態系に関する研究、特にブルーカーボンの先導的研究への貢献」。

ドゥアルテ氏は、地球環境変動下にある海洋生態系に関する研究の第一人者。ブルーカーボンに関する研究では、海洋生態系の中でも、塩生植物、マングローブ、海草によって構成される「沿岸植生域」が、最大のブルーカーボン貯蔵庫であることを発見した。沿岸植生域の海底には、全海洋における年間堆積量の50%に相当するブルーカーボンが堆積し、しかも1000年以上にわたってここに貯留される。このことから、沿岸植生域は地球温暖化を抑止する上で最重要の生態系であることが明らかになった。

一方、沿岸植生域は人間活動によってもっとも破壊された生態系であり、ドゥアルテ氏はその保全と再生に向けた活動にも取り組んでいる。さらに、現存する海洋生態系の機能を利活用することが、持続可能な地球の未来につながる鍵になるとドゥアルテ氏は指摘している。

受賞したカルロス・M・ドゥアルテ博士(出所:国際科学技術財団)

受賞したカルロス・M・ドゥアルテ博士(出所:国際科学技術財団)

日本でもブルーカーボンによる吸収源対策が活発化

ブルーカーボンは、2009年に公表された国連環境計画(UNEP)の報告書で紹介され、吸収源対策の新しい選択肢として世界で注目されるようになった。日本でも、海洋生態系を活用したCO2の吸収・固定化の取り組みが進められている。例えば、環境省は、地域ニーズに沿った藻場造成の入り口となる試験栽培や関連データの取得を行う「ブルーカーボンに関する重点調査」を実施している。神奈川県横須賀市は、藻場の造成活動に取り組み、これより創出されたJブルークレジットを販売している。

化合物半導体電子・光デバイスの量産と商用化に道

デュプイ氏の授賞業績は「化合物半導体電子・光デバイスのための有機金属気相成長法の開発と大規模商用化への先駆的貢献」。

化合物半導体の大規模商用生産には、有機金属化合物ガスを原料とする「有機金属気相成長法(MOCVD)」という方法が幅広く用いられている。デュプイ氏は、1970年代に化合物半導体の作製方法としてMOCVDに注目し、この手法により作製したデバイスが優れた実用特性を示すことを実証した。この研究によって化合物半導体電子・光デバイスの量産と商用化につながる道が大きく開かれた。

情報化社会を支える多様な情報端末や周辺機器には、さまざまな半導体デバイスが使われている。電子の流れを制御することができる半導体は、トランジスタをはじめとする種々の電気的特性をもつ電子デバイスを作り出すことができる。さらに2種類以上の元素を組み合わせてできる化合物半導体では、元素の組み合わせが生み出す多彩な特性によって、発光ダイオード(LED)・半導体レーザー・太陽電池などの種々の電子・光デバイスを実現できる。

受賞したラッセル・ディーン・デュプイ博士(出所:国際科学技術財団)

受賞したラッセル・ディーン・デュプイ博士(出所:国際科学技術財団)

日本国際賞(Japan Prize)について

日本国際賞は、全世界の科学技術者を対象とし、独創的で、飛躍的な成果を挙げ、その進歩に大きく寄与し、もって人類の平和と繁栄に著しく貢献したと認められる人に贈られる。

授賞対象分野は科学技術の全分野を対象とし、科学技術の動向等を勘案して毎年二つの分野を指定する。原則として各分野1件に対して授与され、受賞者には賞状、賞牌に加えて副賞として1億円(各分野)が贈られる。

なお、2024年日本国際賞では、「資源、エネルギー、環境、社会基盤」分野で、英国・レディング大学のブライアン・ホスキンス教授(イギリス)と、米国・ワシントン大学のジョン・ウォーレス氏(米国)が受賞している。授賞業績は「異常気象の理解と予測に資する科学的基盤の構築」。両博士の研究成果を背景に発展してきた数値天気・天候予報は、今や地球温暖化に伴う異常気象を予測し、防災・減災につなげていくという大きな社会的責務を担うようになってきたと貢献を讃えている。

【引用】
環境ビジネス.  https://www.kankyo-business.jp/news/0af7c102-de44-4886-8dc0-f130edd191da

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