林野庁は11月29日、国連気候変動枠組条約に基づき政府が作成する温室効果ガスの排出実績等の報告に関連し、森林吸収量に係る算定方法の改善方向についてまとめた、研究会の報告書(中間とりまとめ)を公表した。
この提言を踏まえ林野庁では、森林吸収量の算定方法のより詳細かつ具体的な方法論の作成に向け、今後検討を進めていく。
国際的標準であるNFIデータの活用を提言
この報告書では、森林吸収量の算定方法について、炭素動態の実態をより的確に反映できるよう、国際的な標準に合わせ、全ての立木を測定する標本調査データ(National Forest Inventory:NFI)を活用した直接推定方法へ見直すことが適当だと提言している。また、新たな算定⽅法については、2025年度分の森林吸収量の実績算定から適用可能となるよう詳細な検討を進めることとしている。
中間とりまとめのポイント
森林吸収源に関しては、京都議定書第1約束期間において、削減約束の達成に活⽤できることが認められた。森林吸収量の算定⽅法に当たっては、IPCCガイドラインでは、標本調査により実測した直径や樹⾼等の計測結果から直接推計する⽅法と、蓄積の成⻑モデルから間接的に推計する方法が認められている。
日本では、森林吸収量の算定に関して、現在まで、主に林業目的で植えられた樹種ごとに作成された成⻑モデルを利用して推計する方法を採用している。京都議定書が採択された1997年当時、諸外国のように、NFIを⾏っておらず、そのデータ整備に⻑期間を要することが⾒込まれたためだ。
成長モデルによる算定方法は、京都議定書が採択された当時のデータ整備の水準や知見等を踏まえたものだが、特に高齢級人工林や天然林において、森林蓄積の推定に誤差が出やすいなどの課題があった。また、森林資源に係るデータ蓄積の進展を受けて、日本の森林の二酸化炭素吸収能力が従来報告されていたより⾼いことを⽰唆する研究もなされている。
このような中、林野庁では、全国約1.5万点の固定調査点において、林業目的樹種以外も含めた全ての立木を5年周期で測定するNFIを1999年から継続的に実施し、実測データの集積を図ってきた。また、第三者機関による品質管理・品質保証を通じた実測結果の統計的信頼性の向上等にも取り組んできた。この結果、NFI調査の時系列データを比較することで森林蓄積の増加量を直接推定することがようやく可能となった。
そこで、中間とりまとめでは、森林吸収量の算定方法について、諸外国でも一般的に採用されているような、森林の炭素蓄積データをより正確に得られているNFI調査データを活用した直接推定方法へ見直すことが適当だと考えている。
次期削減目標の提出に向けて
気候変動枠組条約締約国会議の決定において、各国は、2025年頃までに、「国が決定する貢献(NDC)」として、次期温室効果ガスの排出削減目標を国連に提出することが求められている。日本では、地球温暖化対策計画の改定が⾒込まれており、森林・林業分野においては「森林吸収源対策」を引き続き推進する方針とされている。
林野庁は、こうした状況を踏まえ、森林吸収量の算定方法について、最新のデータ蓄積から得られる知⾒を活⽤し、炭素動態の実態をより正確に把握できるものへと改善するため、科学的な知⾒を有する専⾨家等からなる検討会を設置し議論を重ね、森林吸収量に係る算定方法の改善方向に関する「中間とりまとめ」を行った。
中間とりまとめでは、NDCの改定サイクルに合わせて将来の森林吸収量目標を設定する場合には、最新の森林吸収量の算定方法と整したものとする必要があること、その際、将来の森林吸収量は、自然の遷移に加え、森林の伐採量や造林量等による林齢構成の変化によって影響を受けることから、森林・林業基本計画等を踏まえた推計を⾏うことが適当だとしている。
また、森林の吸収量のみに着目するのではなく、木材製品の利用を通じた長期的な炭素貯蔵効果、エネルギー多消費型資材や化⽯燃料の代替によるCO2排出削減効果等も含め、森林・林業分野が果たしている役割を適切に評価していくことも重要だと指摘している。
【引用】
環境ビジネス. https://www.kankyo-business.jp/news/914b679e-69fd-4502-9754-2bbc6190a689