新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は7月1日、国内外の市場・技術・政策の動向を調査・分析に基づき、新たに取り組むべき領域や取り組みを強化すべき領域を提案する報告書「Innovation Outlook Ver.1.0」を発行した。
また、同領域における優れた技術の発掘・育成を目的として、有望な研究開発テーマを募集するRFI(Request For Information)を同日開始した。
13のフロンでティア領域を提案
この報告書では、「MFTロジックモデル」を用いて、NEDOのイノベーション戦略センター(TSC)が、分野全体を俯瞰・分析を行い、13のフロンティア領域などを提案した。
MFTロジックモデルとは、技術経営のフレームワークの1つであるMFT(Mission/Market、Function、Technology)を参考にして、ロジックモデルを構築し、フロンティア領域等の探索を行うこと。
今回、新たな機能・提供価値(Function)で、市場のニーズや社会課題(Mission)と、それを解決する技術(Technology)を結びつける解決のために取り組むべき領域として、「地下未利用資源の活用」「変動性再エネ最大活用のための長期エネルギー貯蔵」「ベースメタルリサイクル」「化学品炭素源の化石資源からの抜本的な転換」「化石原料から再生可能原料への転換」などを提案し、具体的手段のテーマ例を詳説した。
TSCでは、今回特定した領域を基に、各領域の研究開発から社会実装までの道筋を描く「イノベーション戦略」の策定に取り組む。フロンティア領域などにおけるアイディア発掘、研究開発、事業化までを包括的かつ機動的に推進する仕組みも構築中だ。
MFT全体俯瞰で取り組むべき領域を提案
今回の報告書では、社会像と、その背景となる市場・技術・政策動向、社会課題を踏まえ、分析を行った結果、その解決のために機能・提供価値を取り組むべき領域として捉えて全体俯瞰を示す。また、取り組むべき領域の中から将来性、革新性、日本の強み、経済安全保障上の重要性、民間でのリスクを踏まえ、フロンティア領域などを提案する。
具体的には、下図のようにMFT全体俯瞰を行い、13のフロンティア領域など(黄色のボックス)を提案した。

MFT全体俯瞰(社会課題:M、取り組むべき領域:F、技術:T)(出所:NEDO)
全体サイクルのマネジメントフローを検討
今後はフロンティア領域の推進にあたり、探索から育成、国家プロジェクトや民間事業としての実施、社会実装までの全体サイクルのマネジメントフローを検討していく。また、「Innovation Outlook」を継続的に更新し、充実させることで、イノベーション推進に貢献する。
具体的な推進内容は以下の通り。
(1)「Innovation Outlook」策定を通じて所掌分野の全体俯瞰を行うことで、社会課題の解決のために日本の産官学が一体となって取り組むべきフロンティア領域などを提案する。
(2)提案されたフロンティア領域などについて、解決策を産業界、アカデミア、スタートアップなどから広く募集し、各領域で取り組むべき研究課題とその社会実装までの道筋を仮説として示したイノベーション戦略の案を策定する。
(3)国家プロジェクトとして重点的に推進すべきフロンティア領域等については、経済産業省に対して提案を行い、経済産業省は自らの評価・分析や他の機関からの情報も踏まえ、重点フロンティア領域を選定し、フィジビリティスタディを実施する。
(4)フィジビリティスタディの結果を踏まえ、仮説を検証した上で、必要に応じてピボットを行った上で、国家プロジェクトや民間事業としての実施を検討し、その結果をイノベーション戦略として取りまとめる。
(5)イノベーション戦略に基づいて国家プロジェクトや民間事業を組成して、社会実装に向けた取り組みを推進する。

NEDOのフロンティア領域マネジメントフロー(出所:NEDO)
フロンティア領域の有望な研究開発テーマを募集
また、NEDOは7月1日、「NEDO先導研究プログラム/新技術先導研究プログラム及びフロンティア育成事業」において、公募における技術課題を設定するため、情報提供依頼(RFI)を開始した。なお、このRFIは、直接的にプロジェクトの実施や資金提供の機会を呼びかけるものではない。
RFIにおいては、「脱炭素社会の実現」と「新産業の創出」に向けた技術シーズを募集する。新産業の創出に向けては、将来的なポテンシャルが非常に高い一方で、技術や市場の不確実性が大きく、民間企業単独では取り組みにくい「フロンティア領域」に対して、領域を精査し、重点的に取り組むフロンティア領域と研究開発課題の選定を行う上で、有用な技術シーズを募集する。
オンラインによるRFI説明会(Teams会議)を7月18日と7月31日に開催する。募集の詳細などはNEDOのウェブサイトを参照のこと。
革新技術を早期に産業化・社会実装へ
NEDOのイノベーション戦略センター(TSC)は2014年の設立以来、国内外の産業技術やエネルギー・環境技術動向の調査・分析を行い、日本の技術戦略の策定や、各種調査・分析・発信活動を行ってきた。一方で、従来のような技術開発への支援だけでなく、革新技術を早期に産業化、社会実装することによって社会システムの変革を促す「トランスフォーマティブ・イノベーション」が求められるようになった。
そこで、TSCは2024年度からの活動の柱として、「Innovation Outlook」の策定することとし、検討を進めてきた。今般、初版として「Innovation Outlook Ver.1.0」を取りまとめ、発行した。
TSCはイノベーション・アクセラレーターとして、「Innovation Outlook」を通して、革新技術の社会実装に向けた事業モデルの構築、ルール・標準の整備、社会受容性の醸成など新たな社会システムの変革を伴うトランスフォーマティブ・イノベーションを実現し、社会課題の解決や新産業の創出につなげていくことを目指す。
【参考】
・NEDO-国内外の市場・技術・政策動向を俯瞰した報告書「Innovation Outlook」を発行しました
・NEDO-「NEDO先導研究プログラム/新技術先導研究プログラム及びフロンティア育成事業」に係る情報提供依頼(RFI)について
【引用】
環境ビジネス. https://www.kankyo-business.jp/news/64acb072-70cf-4977-aef5-e6ca158a02cb