東京都と神奈川県、埼玉県など首都圏9都県市は5月28日、脱炭素社会実現に向けた取り組みの推進について、経済産業省・国土交通省・環境省に要望したと発表した。カーボンリサイクル技術などの革新技術確立のための財政支援強化や2026年度から本格稼働する国内排出量取引制度における実効性確保などについて求めた。
脱炭素社会実現に向けて6つ柱で要望
要望事項は次の6つを柱とする。
- 脱炭素型ライフスタイルへの行動変容に向けたムーブメントの創出
- 区域ごとのエネルギー消費データなどの提供
- 脱炭素化とエネルギー安全保障の一体的実現
- 革新的技術の確立支援と国内排出量取引制度の確立
- 水素社会実現に向けた取り組みの強化
- 代替フロン排出削減の徹底
革新的技術の確立支援と国内排出量取引制度の確立では、産業部門における大幅なCO2排出量の削減に向け、2021年6月に改定された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」にて示されたカーボンリサイクル技術などの革新技術確立のための財政支援の強化を求めた。また、2026年度から本格稼働を予定している国内排出量取引制度は、総量削減を中核とする実効性の高い制度とすることを要望した。
「九都県市首脳会議」参加自治体
今回、九都県市は、九都県市首脳会議での合意に基づき、国に対して要望書を提出した。九都県市は、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、横浜市(神奈川県)、川崎市(同)、千葉市、さいたま市、相模原市(神奈川県)。
その他の具体的な要望の概要は以下の通り。
脱炭素型ライフスタイルへの行動変容に向けたムーブメントの創出
脱炭素化に資する取り組み、製品・サービスを増加させていくため、国民・消費者の新しい暮らしを強力に後押しするとともに、「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動(デコ活)」などを活用し、深刻化する気候危機の状況やカーボンフットプリント情報の見える化など国民に分かりやすく情報発信することなどにより、脱炭素型ライフスタイルへの行動変容に向けて、より具体的かつ統一的なムーブメントを創出すること。
区域ごとのエネルギー消費データなどの提供
国は地方自治体に、地域のエネルギー利用の特性・実情の把握と、効果的なエネルギー施策立案に資するよう、主体別の消費量と系統電力の電源構成、区域内における再生可能エネルギー種別ごとの設備容量、発電量などを提供すること。また、地域の住民や事業者などが使用した再生可能エネルギー由来の電力量を温室効果ガス排出量の削減に反映させるため、電力量を把握する仕組みづくりを検討すること。
地方自治体において、温室効果ガス排出量の算定、脱炭素化の取り組み、エネルギー政策のさらなる推進や施策などの検討のためには、地域のエネルギー利用状況の実態を把握する必要がある。しかし、電力・ガスの自由化以降、把握が難しくなっていること、また、固定価格買取制度(FIT)で認定を受けた設備以外の情報把握が困難であること、自家消費や卒FITを始めとする再エネの設備容量などは、現在においても国から提供されていないことを、その背景としてあげている。
脱炭素化とエネルギー安全保障の一体的実現
気候危機が一層深刻化する中、ウクライナ・ロシア情勢は、エネルギーの安全保障の脆弱性という課題を改めて顕在化させた。この問題を乗り切るために、脱炭素化とエネルギー安全保障を一体的に実現する視点から、以下の取り組みを一層加速させること。
エネルギーのさらなる効率的利用
- 高効率設備・機器等の普及やエネルギーマネジメントシステムの導入、建築物のゼロエネルギー化の実現に対する支援を継続・強化
再生可能エネルギーの導入拡大
- 再エネの導入に係る補助制度の抜本的な拡充を図ること
- 次世代型太陽電池に関して、政府機関への導入目標を早期に示し、率先して導入するとともに、幅広く自治体施設などへの導入が進むよう、量産や安定供給への支援を行うこと
- 「第7次エネルギー基本計画」において、2030年度エネルギー需給見通しなどで示した具体的な施策を着実に実行するため、特に今後数年間で取り組む事項や期限を明確化し、実現に向けた行動を一刻も早く開始すること
- 再エネの導入拡大に当たっては、全国的に系統制約が依然として発生しているため、発電した再エネを無駄にすることのないよう、再エネの優先接続を一層推進すること。また、電力需給調整機能の一層の活用、地域間連系線の最大限活用などにより、再エネの系統接続の最大化を図ること
- 現行の地域間連系線の増強スケジュールを前倒しするとともに、将来を見据えた全国規模での系統増強を計画的かつ早期に進めること
火力発電の脱炭素化に向けた取り組みの促進
- 化石燃料からグリーン水素等への燃料転換に対してさらなる支援策を講じること
水素社会実現に向けた取り組みの強化
水素社会の実現のため、以下の取組を一層加速させること。
水素ステーション等に係る規制緩和のさらなる推進
- 「水素基本戦略」に掲げる水素ステーションの整備目標(2030年度までに1,000基程度)を達成するため、「規制改革実施計画(2020年7月閣議決定)」などに掲げる規制見直し項目のうち、措置されていない項目を着実かつ速やかに推進すること
- 障壁の高さに係る技術基準の見直しを進めるとともに、公道と水素充填設備との保安距離規制に関して、ガソリンスタンド並の更なる緩和を進めること
- 水素ステーションの保安検査方法について、事業者負担の軽減、営業休止期間の短縮をより一層進めること
- 水素に関する新技術・新製品の許認可に係る期間について、安全性の確保を前提として短縮を図ること
水素ステーション整備・運営に係る継続的な支援の実施
- 燃料電池自動車の普及に向けて、水素ステーションの整備や運営に不可欠な経費に対しての継続的かつ十分な支援を実施すること
- 大型車両への対応に伴う能力増強工事や事業所専用の水素ステーション整備、パイプラインによる水素供給を含む多様なニーズに対応するためのマルチステーション化を柔軟に実施できるように補助制度の見直しを図ること
燃料電池自動車などの普及促進と用途拡大・技術開発のための財政支援などの実施
- 乗用の燃料電池自動車に加え、燃料電池バスや燃料電池トラックの普及促進は、水素エネルギーの早期普及拡大に向け必要不可欠であるため、国による財政支援を強化・拡充すること
- ユーザーのニーズに対応するため、乗用・産業用燃料電池自動車の車種の拡大などを図るために、開発メーカー等への支援を継続すること
グリーン水素の活用促進のための積極的な施策展開
- グリーン水素について、製造・供給・利用に関する規制の緩和や水素製造コスト低減に向けた技術開発を進めるとともに、その設備導入や運用に対し継続的な財政支援を行うこと
- グリーン水素の認知度を向上させるとともに、グリーン水素の環境価値の評価を確立し、活用に向けた仕組みを検討するなど、積極的な施策展開を図ること
代替フロン排出削減の徹底
代替フロンの排出削減に向け、「代替フロンの温室効果に係る啓発のさらなる充実」、「第一種特定製品使用時における漏えい防止技術の普及促進・開発支援」「第一種特定製品廃棄時における回収率向上に向けた取り組みの強化」を一層加速させること。
【参考】
神奈川県横浜市(座長/9都県市合同)-九都県市合同による脱炭素社会実現に向けた取組の推進に関する要望の実施について
【引用】
環境ビジネス. https://www.kankyo-business.jp/news/9acdc262-2b65-49ab-9e5c-d0e6ea672507