2024年度森林・林業白書、生物多様性を初特集 6つのトピックス解説も

林野庁は6月3日、森林・林業の動向と政府の施策についてまとめた「令和6年度 森林・林業白書」を公表した。今回の特集では、「生物多様性を高める林業経営と木材利用」をテーマに、初めて、生物多様性について取り上げた。日本の森林が高い生物多様性を誇ることを解説するとともに、森林保全の取り組みや、生物多様性を高めるための林業経営、そこから生産される木材利用の今後の方向性について掲載している。

森林由来のJークレジット創出などにも言及

今後の方向性では、生物多様性を高める林業経営の新たな収益機会として、森林由来のJ-クレジットの創出の取り組みや、民間企業に持続可能な木材利用への配慮を求める動きなどに言及している。

また、2024年度における特徴的な動きとして、「森林経営管理制度5年間の取り組み成果」や「中高層建築物などにおける木造化の広がり」「プラスチックを代替するバイオマス由来素材『改質リグニン』の今後の展開」など6つのトピックスを紹介している。

白書は、特集・トピックスのほか、5つの章、2025年度森林と林業施策、で構成される。各章では、事例や写真を豊富に掲載しており、関連ホームページの二次元コードも付している。

6つのトピックスの概要

6つのトピックスとその概要は以下の通り。

  • 森林経営管理制度5年間の取り組み成果
    森林経営管理制度は、手入れの行き届いていない森林について、市町村が所有者から委託を受け、林業経営に適した森林は林業経営者に再委託するとともに、林業経営に適さない森林は市町村が自ら管理する制度。同制度は5年が経過し、この制度の活用が必要な市町村のほぼすべて(1,132市町村)で取り組みを開始している。一方、地域の関係者と市町村との連携が不十分で集約化につながっていない、市町村の体制が十分でないなどの課題も浮き彫りとなっている。2025年2月に、経営管理の集約化を通じた森林資源の循環利用を進める新たな仕組みの創設や、委託を受けて市町村事務を支援する法人を制度的に位置付けることなどを内容とする「森林経営管理法及び森林法の一部を改正する法律案」が国会に提出されている。
  • 「林業職種」の技能検定がスタート~「林業技能士」の誕生~
    林業従事者の技能や社会的・経済的地位の向上などへの寄与を目的として、技能検定の職種に「林業職種」を新設。これにより「林業技能士」が誕生した。
  • 木材自給率が近年で最も高い43%まで回復
    日本の木材自給率は、国産材供給の減少と木材輸入の増加により低下が続いたが、2023年に43%まで回復し、直近で最も高い水準となった。2012年のFIT制度導入などにより、木質バイオマス発電施設の整備が各地で進み、燃料用チップなどの燃料材の利用量も年々増加していることも、国産材供給量増加の要因としてあげている。さらなる自給率向上に向け、横架材など国産材率の低い部材における技術開発・普及などを推進する。
  • 中高層建築物などにおける木造化の広がり
    近年、木材があまり使われてこなかった都市部の4階建て以上の中高層建築物において、国産材を活用した木造ビルが多く出現している。木材を利用することは、炭素の貯蔵やエネルギー消費の節約、CO2排出量の抑制などに貢献することから、大手建設会社などでは中高層ビル等の建設において、国産材を積極利用する。木造率が低い状況にある、店舗やオフィスなどの民間の低層の建築物においても木造化の動きがみられ、コン ビニエンスストア等を展開する企業などが協定を締結し、新店舗を木造で建設する例もある。
  • プラスチックを代替するバイオマス由来素材「改質リグニン」の今後の展開
    日本固有の樹種であるスギを原料とする「改質リグニン」は加工性が高く耐熱性・強度に優れ、高機能プラスチックを始め幅広い用途に利用できる。温室効果ガス排出削減の取り組みが進められる中、化石資源由来のプラスチックを代替する改質リグニンの社会実装が急務となっている。2024年4月に改質リグニンの今後の展開方向を整理し、取り組みを支援している。
  • 2024年能登半島地震と大雨による山地災害等への対応
    2024年1月1日に発生した能登半島地震における林野関係の被害箇所数は、2025年3月時点で、林地荒廃、治山施設、林道施設、木材加工流通施設・特用林産施設など140カ所に上り、被害総額は約901億円。石川県内の地震と大雨により被災した木材加工流通施設・特用林産施設などは、2025年3月時点で、61カ所のうち49カ所で営業を再開。林野庁では、被災地の早期復旧に向けた取り組みを推進するとともに、林業・木材産業などの復旧・復興を支援している。

5つの章と施策の概要

第1章:森林の整備・保全
再造林、花粉発生源対策、森林環境税・森林環境譲与税、Jークレジット、治山対策、林野火災などの森林被害対策などについて記述

第2章:林業と山村(中山間地域)
林業経営、林業労働力の動向、きのこ類・薪炭等の特用林産物、山村の活性化などについて記述

第3章:木材需給・利用と木材産業
違法伐採対策、建築分野における木材利用、木材輸出、木材産業の競争力の強化などについて記述

第4章:国有林野の管理経営
国有林野の役割、公益重視の管理経営、森林・林業施策全体への貢献などについて記述

第5章:東日本大震災からの復興
復興に向けた森林・林業・木材産業の取り組み、森林の放射性物質対策、安全な特用林産物の供給などについて記述

2025年度 森林及び林業施策
2025年度予算などを基に施策の概要を整理

森林・林業白書とは

政府は6月3日に「令和6年度 森林・林業白書」を閣議決定した。森林・林業白書は、森林・林業基本法に基づき、政府が毎年作成して国会に提出するもので、森林・林業の動向と政府の施策について記述している。この白書を通じて、日本の森林・林業に対する国民の関心と理解がより深まることを目指している。

なお、林野庁は、6月と7月に森林・林業白書説明会(オンライン)を開催する。最新白書について、写真や事例を交えながら、林野庁担当者が分かりやすく解説する。開催日は6月22日、7月24日。定員は各回200名程度。参加申し込み・詳細はウェブサイトで公表する。

【参考】
林野庁-令和6年度 森林・林業白書を本日公表

【引用】
環境ビジネス.  https://www.kankyo-business.jp/news/367ea939-8cb4-4170-b0b2-74bc18fed871

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