世界経済フォーラム(WEF)は11月14日、世界のグリーン移行に関する報告書を公開した。この中では、移行に伴い、新たに960万人の雇用が創出される一方で、国や地域間で新たな経済格差を生むリスクがあると警告している。
低所得国では2割以上の企業がグリーン技術の利用困難
報告所によると、グリーン移行は2030年までに世界で1440万人の雇用に影響を与えるという。240万人の雇用が段階的に減少するが、960万人の雇用の機会が生まれ、全体としては960万人の純増となる見込み。
雇用創出というプラスの効果が期待される一方で、グリーン移行は、新たな技術格差を生み出すリスクが懸念されると、報告所では指摘している。
グリーン移行に向けた資金調達では、依然として不均一な状態が続く傾向にあり、世界全体の32%の企業が、資金調達へのアクセス不足を競争力維持の障壁の課題と認識。企業の経営幹部の8割が、企業間のグリーン金融へのアクセス格差を重大なリスク要因と捉えていることがわかった。
特に、低所得国では事態が深刻で、5社に1社以上がグリーン技術の利用さえ困難な状況にあると報告している。現在、多くの政府がエネルギー分野やグリーン産業における産業政策を強化しているが、技術や生産能力へのアクセスは国ごとに異なり、均等化しない可能性がある。そのため、グリーン移行は、新たな技術格差を生み出す可能性があると、WEFは警鐘を鳴らす。

多くの企業がグリーン移行における競争力の維持に苦慮。37%がエネルギーおよび原材料コストの上昇を報告(出所:世界経済フォーラム)
グローバル全体約33%の企業、自国の雇用喪失に警戒
また、今回の調査で、世界の1/3の企業が国内での雇用喪失を懸念していることが明らかになった。
社会的保護制度の充実度や社会経済的な基盤が強固であるほど、労働者や消費者への影響に関する懸念レベルが低くなる傾向があるものの、グリーン移行により利益が見込まれる国であっても、労働市場での重大な混乱は避けられないと、解説している。

世界全体で240万人の雇用喪失の可能性(出所:世界経済フォーラム)
日本は「グリーン技術開発国」に位置付け
このほか、報告書では、G20加盟国および世界人口上位10カ国の取り組み状況を、6つの類型に分類し分析した。
日本は、グリーンテクノロジー分野をリードする工業先進国である一方、一人当たりの排出量は依然として高い水準を維持する国「グリーン技術開発国」に割り当てられた。同分類には、中国・ドイツ・韓国・米国などが含まれている。
そのほかの各国分析結果は以下の通り。
- 包摂的グリーン移行推進国:サービス産業が発達した先進経済国で、資金調達環境が良好かつ社会システムも整備されている。豪州・フランス・英国。
- 新興グリーン移行推進国:産業基盤と製造業が発達し、優秀な人材が豊富な一方で、投資環境には一定の制約がある国。イタリア・トルコなど
- 成長経済国:急速な工業化が進む一方で、グリーン投資とエネルギーの手頃な価格、アクセスの確保という課題のバランスを取る必要がある国。ブラジル・インド・メキシコ・南アフリカなど
- 化石燃料輸出国:GDPと政府収入の大部分を化石燃料に依存している経済圏。サウジアラビアなど
- フロンティア経済国:低所得国であり、資金調達、人材、コスト面で深刻な障壁に直面している国。バングラデシュ・ナイジェリア・パキスタンなど
WEF、COP30で報告書を発表
同報告書の名称は、「Making the Green Transition Work for People and for the Economy(人々と経済の双方に利益をもたらすグリーン移行を目指して)」。ブラジルで開催中の国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)に合わせて発表された。
同会議では、グリーン移行が社会と経済に及ぼす影響や人的発展の重要性に関して、これまで以上に重点的な議論が行われている。
【引用】
環境ビジネス. https://www.kankyo-business.jp/news/4f3dbc7f-7174-41a8-8a95-d02bc153c1c6