環境省、日本企業による環境デュー・ディリジェンスの取り組みのあり方を提示

環境省は4月28日、日本企業による環境デュー・ディリジェンス(環境DD)の対応促進に向けた課題と今後の方向性について、有識者による懇談会において議論した結果を取りまとめ公表した。

3回の懇談会の議論の結果を「議論のまとめ」としているほか、企業が環境DDの取り組みを進めていく上で特に重要と考える点を「ポイント」として要約。海外企業などの環境DDに係る取り組みも「事例集」として紹介している。

人権と環境課題の統合的対応を促進へ

環境DDとは、バリューチェーン全体にわたる環境リスクマネジメントをいう。

今回公表した「日本企業による環境デュー・ディリジェンス対応促進に向けた懇談会議論のまとめ」は、国際的な潮流も踏まえて環境DDに意欲的に取り組もうとする日本企業の担当役員や実務担当者による利用を想定している。日本企業が、経営層のイニシアティブのもとで組織横断的に環境DDに取り組み、多様なステークホルダーとの連携により、企業の持続的な成長につなげてもらうことを狙いとしている。

日本のビジネス社会で、デュー・ディリジェンス(DD)は、M&A(合併や買収)における投資対象の調査をあらわす用語として使われてきた。しかし、近年は、環境や他の分野も含めた、責任ある企業行動のすべての側面における課題への対応としてDDプロセスを活用する動きが進んでいる。

2011年に、国連で「ビジネスと人権に関する指導原則」が作られ、人権侵害リスクを特定・防止する手段として、DDプロセスの実施を求めるようになった。以降、欧州を中心にDDの法規制化の動きが見られ、EUによる企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)のように、DDの義務化を域外にも適用する動きも見られている。

DDは日本企業にとっても対応が迫られる課題となっている。また、DDの対象は人権のみならず環境課題にも広がっており、両者の横断的な対応を求める声もある。

こうした動向を踏まえ、環境省では、日本企業の海外規制に対する効果的・効率的な対応だけでなく、人権との横断的対応も視野に入れた環境課題に対する統合的対応を促進するため、日本企業による環境DDの取り組みのあり方を、有識者による懇談会において検討した。

環境DD対応に向けた取り組みのポイント

環境DD対応に向けた取り組みのポイントは次の通り。

取り組みの必要性

実効的な環境DDの実施のためには、環境DDのプロセスを会社の経営方針やリスク管理に統合し、経営が関与しながら、環境・人権にまたがる部門横断的な対応を図っていく必要があり、現場任せにしない、経営レベルでの取り組みが不可欠。

(出所:環境省)

(出所:環境省)

企業の経営基盤を強化にも貢献

環境DDへの取り組みは、EUによる企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)への対応という観点のみならず、企業のサステナビリティ経営を一層推進し、企業の経営基盤を強化することにも貢献する。

リスクベースアプローチに基づくデュー・ディリジェンスの徹底

あらゆるリスクへの対応が必要という訳ではなく、リスクベースアプローチに基づき、環境・人権リスクに対して、企業がよりネガティブな影響を与えるリスクから対応をしていくべき。環境・人権リスクの横断的な対応が求められる場面においても、リスクベースアプローチを徹底しつつ、双方へのリスクをできる限り低減する取組を行っていくべき。

ガバナンスの構築

企業の方針やリスク管理への組み込みの場面のみならず、実際のDDの実施においても、企業のビジネスプランや包括的な戦略を見直す場面も想定されるため、DDの対応においては経営層による関与が重要。

DDにおけるリスクの特定・評価の適切な実施

リスクの特定・評価を誤ると、潜在的な負の影響の防止や、現に生じている負の影響の収束化など、リスクの特定・評価の後のプロセスでの対応を誤る可能性が高く、このプロセスを如何に適切に実施するかが重要。

DD全般にわたるステークホルダーエンゲージメントの実施と情報開示

企業の人権・環境リスクに対して適切に把握・対応する観点から、ステークホルダーエンゲージメントが重要であり、識別した重要なリスクを中心に、さらにステークホルダーエンゲージメントを深めていくべき。当面は日本企業の義務とはされていないものの、企業が想定するステークホルダーや対話の内容を開示し、これを奇貨としつつ外部とのコミュニケーションの改善を行い、潜在的なステークホルダーを掘り起こしながら、ステークホルダーとの共創関係を構築していくことも望まれる。

サステナビリティ開示との一体的取り組み

特に、ダブルマテリアリティのサステナビリティ開示を行う場合、デュー・ディリジェンスの延長線上に存在すると考えられるため、両者を一体的に対応することが重要。

苦情処理の仕組みと是正・救済措置

DDの実効的なプロセス構築の観点から、苦情処理の仕組みや是正・救済措置の構築・運用が遅れることは望ましくない。苦情処理の仕組みについては、「国連ビジネスと人権に関する指導原則」で定める要件も参考にしながら、(1)公平性(2)公示性(3)利用可能性(4)予見可能性(5)透明性のある手続き、を確立すべき。

環境DDの実施が求められる背景

2023年5月に開催されたG7広島サミットの首脳コミュニケでは、「我々の地球は、気候変動、生物多様性の損失及び汚染という3つの世界的危機」に直面していることが述べられた。

気候変動の影響では、世界各地で異常な高温、平均海面の上昇、極端な大雨や大規模な森林火災が発生している。生物多様性の問題では、IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)によると、人類の活動によって、自然生態系は推定可能な最も初期の状態から平均47%減少している。汚染の問題では、プラスチック廃棄物が河川、湖沼、海洋に流出している。

こうした深刻な環境危機は人権に負の影響を及ぼす場合があり、こうした場合に環境問題を人権問題として捉える考え方も浸透してきている。

多くの企業活動は、環境に何らかの負の影響を与えている、またはその可能性を有しており、これらに適切に対処することは、企業が果たすべき責任の一つとなっている。

企業としての責任を能動的に果たし、環境への負の影響を低減しつつ、企業の成長機会を発見する上では、バリューチェーン全体にわたって、幅広いステークホルダーと協働しながら環境リスクマネジメントを実現していく環境DDの実施が有効であると考えられている。

【参考】
環境省-日本企業による環境デュー・ディリジェンス対応促進に向けた懇談会議論のまとめの公表について

【引用】
環境ビジネス.  https://www.kankyo-business.jp/news/e7a5eae9-6713-4b89-819d-7320001b9262

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